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あるノルウェーの大工の日記

あるノルウェーの大工の日記

Life work

2017

今回の推薦書は、ノルウェーでベストセラーとなり、世界14カ国で翻訳版が作られる話題のエッセイ、“あるノルウェーの大工の日記”。
「私は木を扱う仕事をしている。いわゆる“大工”だ。大工職人の免許と、大工たちを統率する親方の免許、その両方を持って仕事をしている。」とエッセイは始まり、「手仕事とは、とりたてて神秘的なものでもない。依頼人の注文に従って行うだけだ。つまり、誰かの要望があってはじめて仕事になる。」とただただノルウェー在住の大工さんの淡々とした日常が綴られ、特にドラマチックな展開もなく前回紹介した安藤忠雄氏の波乱万丈に満ちた人生とは真逆のごくありふれた、普通の、日常的な、英語で言うとordinaryな生活。

でもこの“Ordinary”な生活こそ、実は一番素晴らしいのではないのかという事を語ってくる。映画「ショーシャンクの空に」をご覧になったことはありますか?とても不思議な映画でラストの15分でオセロがひっくり返る様な清々しいエンディングを迎えるが、それまでは無実の罪で投獄され、理不尽な扱いを受け、真犯人を知る囚人と出会うも殺されてしまうという、全編ネガティブな展開でとても名作にはなりにくいストーリー展開にも関わらず、心の一本にあげる人が多い本作。エンディングが素晴らしいのはもちろんですが何よりも、屋上で仕事終わりに仲間と飲むビールのシーン、そして希望を持つことを許されない刑務所の中で流れる美しいオーケストラを聴くシーンなど、ごくありふれた日常こそがもっとも幸せな瞬間なのではないかというメッセージに、多くの人が心を打たれているからではないかと解釈しています。

この“あるノルウェーの大工の日記”も同じ種類の作品で例えば、屋根裏の改装工事の話の中で、「当時は物干しとして屋根裏が使われる事が多かった。今ではそのためにここを使う物はほとんどいないが、代わりに物置としての役割が重要になっている。私たち現代人は物を溜め込みすぎる」とか、「測定、計算、それに制度というものは、メタファーとして人生にも当てはめられるかもしれない。必要以上に制度を追い求めるのはどうかと思うが、適当にやっつけた仕事が歪んでいるのはやはり問題だろう」など、大工仕事の中で気づいた事の中に普遍的なメッセージが読者にいろいろな事を気付かせる。ほとんど人は、ドラマチックな人生ではなく、淡々と日々を過ごして人生を終えていくけれども、これでいいのだと肩をポンっと叩いてくれる本書。

“毎日をていねいに生きる。”という無印良品のコピーのような生き方は、いろいろなものに追われ日々生きるのに精いっぱいになっているとなかなか叶わないと思ってしまうけれど、ふと立ち止まって、その日の出来事を日記などにしたためていったら、今まで見ていた景色とは違ったものが見えてくるのかもしれない。

生前葬を企画する知人に聞いた話ですが、生前葬に招かれた人たちは故人(まだ亡くなっていないけれど)の晴れ日の自慢話よりも、どちらかというと何でもない日常をどのように過ごしてきたかの話のほうが聞いていて楽しいらしい。どうしても休日や記念日など、楽しいことや嬉しい思い出の方にクローズアップしてしまいがちですが、実は平日の何もない日に、とても大切な事が隠れているのかもしれません。

自戒の念を込めて最後はこの一行で。
「この職業において、良質な仕事と悪質な仕事の差は、わずか1ミリしかない」

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